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大阪高等裁判所 昭和55年(ラ)618号 決定 1981年2月16日

抗告人 小倉正彦

相手方 小倉美代子

事件本人 小倉友美 外二名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、「原審判を取消し、本件を大阪家庭裁判所堺支部に差戻すか、又は御庁において更に相当の裁判をされたい。」というにあり、その理由は次のとおりである。

1  相手方及び相手方の両親は、昭和五一年六月二五日徳島家庭裁判所において調停離婚及び調停離縁をした際、抗告人に対し、事件本人らの養育は相手方において行なう、相手方の両親は抗告人に対する慰籍料等の支払にかえて事件本人らの養育料を支払う旨確約した。しかるに、その後相手方の両親において事件本人らの養育料を負担する余地のない程窮乏したというような事情もないのに、相手方が本件請求に及んだことは衡平に反し許されない。

2  抗告人は現在の妻との間に子供が生まれる可能性もあり、又東京へ転勤したことによる出費もあるところ、相手方は山林等多額の資産を有する両親と同居しており、転勤や職場の転換もなく、一介のサラリーマンにすぎない抗告人よりも生活の基盤が安定している。しかるに、原審判は右のような事情についての判断を回避したものであり不当である。

二 当裁判所の判断

1 抗告人の抗告の理由1について

記録によれば、抗告人が昭和五一年六月二五日徳島家庭裁判所において相手方及び相手方の両親と調停離婚及び調停離縁をした際、相手方は抗告人に対し、事件本人らの養育は相手方において行なう旨口頭で約したことが認められる。

ところで、民法八八〇条は、「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があつた後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消をすることができる。」と規定しており、右規定の趣旨からすれば、抗告人と相手方が離婚する際相手方の方で子供三人全部を引取りその費用で養育する旨約したとしても、その後事情に変更を生じたときは、相手方は抗告人に右約定の変更を求め、協議が調わないときは右約定の変更を家庭裁判所に請求することができるものというべきである(家事審判法九条一項乙類八号参照)。

そこで、右約定後「事情に変更を生じた」といえるかどうかについて検討する。

記録によれば、前記離婚後事件本人らの成長に伴いその教育費が増加し、昭和五四年一一月現在における教育実費の一か月平均の金額は、長女友美(高校二年)については四万二四七円、長男和人(中学三年)については二万五、七五七円(ただし、同人は昭和五五年四月高校に入学したため、その後の金額は長女友美と同額と考えられる。)、二女和穂(小学校五年)については一万九、〇六三円であること、相手方は事件本人らとともに実家に同居しているが、相手方の両親とも次第に老齢となり(現在父義男は七一歳、母八重子は六八歳)、体力が衰え、相手方の父は公民館長を昭和五五年三月三一日限り退職することになつており、それ以後は年間約三九万円程度の農業収入が同人の主な収入であること、右離婚後予期に反して相手方の叔父から祖父の遺産につき分割の要求があり、相手方の父は昭和五一年の末ころ、かねて事件本人らの養育費にあてるべく予定していた有価証券の大部分を、遺産分割として右叔父に譲渡したこと、事件本人らはいずれも大学進学を希望しており更に教育費の増加が予想されるのに、昭和五五年九月六日長女友美が満一八歳となつたため、同人に関する児童手当の支給を打ち切られることになつたことが認められる。

右事実によれば、おそくとも昭和五五年七月一日現在においては事情に変更を生じ、相手方において抗告人に対し前記約定の変更を求めうるに至つたものというべきである。よつて、抗告人の主張は採用することができない。

2 同2について

記録によれば、抗告人及び相手方の職業及び昭和五四年度の収入状態は原審判書二枚目裏一二行目から同三枚目裏三行目までに記載されているとおりであることが認められるから、右記載を引用する。ところで、相手方は全く資産を有しないが、抗告人は河内長野市○○○○町××××番の×××宅地二二五・一九平方メートル及び同地上建物、川西市○○字○○○××番××宅地二二八・四七平方メートルを所有していること、相手方の父義男は徳島県阿南市内に田畑、宅地、山林、家屋(右土地建物の昭和五四年度における固定資産課税台帳の評価額は合計二九九万八、四七二円である。)と株式会社○○○○銀行の株式二万二、六〇〇株を所有し、昭和五四年度において公民館長としての給与七八万円、農業収入三九万一、二四一円、右株式の配当金四万五、二〇〇円(半期分)、老齢年金二七万七、八〇〇円、合計一四九万四、二四一円の収入を得たこと、相手方の母八重子は前記銀行の株式二万一〇〇株を所有し、昭和五四年度において右株式の配当金四万二〇〇円(半期)、老齢年金二一万四、三〇八円、縫物による内職収入一四万四、〇〇〇円、合計三九万八、五〇八円の収入を得たことが認められる。

右抗告人及び相手方双方の資力その他前記認定にかかる一切の事情を考慮すると、抗告人に対し事件本人らの養育料として、原審判認定の金額を負担させるのが相当であると認める。よつて、抗告人の主張は採用することができない。

3  そのほか、一件記録を調べてみても、原審判を取消すに足りる違法の点はみあたらない。

したがつて、原審判は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 大須賀欣一 庵前重和)

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